惨めなありさまでしたが、アメリカに来て、めげているわけにもいきません。
強制送還になったら死んでやるぞ、なんてけっこう意気込んで、
手探りで勉強を開始しました。窮地におちいると真剣になるものです。
自分の言いたい文をノートに書き出し、一語づつ、辞書の発音記号どおり
に正しく発音し、暗唱する練習をせっせとくり返しました。
一生懸命に頑張ったのですが、なぜか
Excuse me.
Thank you.
Please.
以外は、ほとんど通じないのです。
発音記号どおりに正しく発音しているのにもかかわらず、です。
やむを得ず、いつも筆記用具を携帯し、筆談で切り抜けるのですが、
そのムナシさ。
日本の家族には
「カリフォルニアの青い空の下で、日々好日。頑張っています」
などと、気配りあふれる手紙を書いたこともありました。

● 発音の違い |
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アメリカ人の発音は私の発音とは根本的に違う。それは明らかでしたが、
どう違うか、何が違うのかはまったく謎でした。彼らの英語は「ペラペラ」ではなく、
もやもやしていて切れ目がなく、とらえ所がないのです。
この謎はさびれたコーヒーショップに通っているうちに、少しづつ解けてきました。

顔なじみになったウエイトレスに、彼女の言ったことを筆談用のノートに書いて
もらいました。
中でも
How would you like your eggs?
(タマゴをどう料理しますか?)
は重要なきっかけとなってくれました。
"How would you" は、ひとかたまりで
「ハゥジュ」。
「あなたのタマゴ」は「ユーア・エッグ」ではなく、like とつながり、
「ライキョァ レッグ」のように聞こえるのです。大きな発見でした。
それというのも、私の英語は単語ごとに区切りの入ったカタカナそのもの
だったからです。
ともかく、「英語はつながる」という、ごく当たり前のことに気づくまでに数カ月
が経過していました。
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